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まず一番初めに知覚したのは小鳥の囀りだった。
薄らと瞼を持ち上げると、まだ柔らかな陽光が室内に満ちている。
朝なのだ、そう理解したルルーシュは、自らが久方ぶりに心地良い眠りについていたことを知った。











夢中天 29










「お早うございます、お兄様」

目覚めの心地良さを保ったまま起きだしたルルーシュに、いつも可憐な妹は微笑む。
醒めた筈の夢に再度捕われるような、過ぎる安らぎが魔王になった少年の心を温めた。

「おはよう、ナナリー」

何ということのない会話こそが幸福なのだと知っているからこそ、ルルーシュは大切に言葉を紡いだ。
穏やかな朝を、今度こそ守らなければならない。
昨日の作戦はその第一歩だった。自身が守りたいと願うもの、その幸福を害さないために考えられるあらゆる手を打ったと言っていい。
地質学者であるシャーリーの父はヒダに呼び寄せてあるし、万が一のことも考えて土砂崩れにも細心の注意を払った。後ほど念のため軍のデータをハッキングして被害者一覧を確認するつもりでいるが、それはあくまで自身の疑念を払拭するためだけに過ぎない。
本日は木曜日、今度こそ土曜に予定されているコンサートに行ける筈だった。
C.C.が言うように自らの手は血塗られているが、汚れた自分にも守れるものはあると思いたい。否、そう信じているからこそ再び「ゼロ」になったのだ。

「お兄様、どうかなさいました?」

「ああ…いや、なんでもないよ」

思考に没頭していた兄を気遣うように、ナナリーは淡く語りかける。
彼女を安心させるべく微笑んだ少年は、冷徹なテロリストであるには愛情に溢れすぎていた。
「以前」の彼の死因がその深すぎる愛情にあったということを、彼は知らない。
















実のところ、まだ何も前進してはいないのだとルルーシュは知っている。
しかし、それでも学舎に向かう足は軽かった。「以前」はナリタでの戦果を手土産に出向かなければならなかったキョウトからも、昨日の内にゼロ宛ての連絡が入っている。
どうも神楽耶がごり押ししたらしい雰囲気が見え隠れしてはいたが、彼らは今後黒の騎士団に対する明確な協力を約束した。その際にラクシャータの来日の手筈まで整えたため、彼女も遠からず黒の騎士団に合流する。
そうなれば「以前」の記憶を元に紅蓮にさらなる武装強化を施し、ゼロの活動はこれまで以上に活発かつ大胆に行うことが可能になる。
そうすれば、今度こそ自身の望む世界が実現される筈だった。

「お、おはようルルーシュ」

「ああスザクか、」

思考に没頭したまま向けられた挨拶に軽やかに返事をしかけて、ルルーシュは凍りつく。
見開いた視線の先では、どこか気まり悪そうな友人が笑顔を浮かべて立っていた。

「なっ、スザ、お前」

言葉にならない声を漏らす副会長の姿は、常の涼しげな雰囲気を裏切っている。
愕然として何ら反応を返すことが出来ない彼を余所に、物陰に隠れて様子を窺っていたらしい友人たちが満面の笑みを携えて現れた。

「やったぁ、スザク君ナイス!
ドッキリ大成功だね!」

「いや、ドッキリっていうか挨拶しただけだろ」

「いいの!ルルが驚いてるんだからドッキリ成功なの。ね、スザク君」

「ええと…その、ルルーシュ、久しぶり」

目前で繰り広げられているのは、正に嘗て自身が渇望した幸福な時間の再現に他ならない。
しかし、そのあまりの唐突さにルルーシュは未だ発すべき言葉を見つけられずにいた。

(何故だ、何故スザクがここにいる!?
否、ユーフェミアと接触したのならそれもおかしくはない。
だが、これが初登校ということであればシャーリーとの会話が不自然すぎる。
しかし一昨日までは確かにスザクはいなかった。昨日も白兜は確かにナリタに現れた…別人…?いや、それはあの動きから考えれば有り得ない)

顔色を失って考え込むルルーシュの様子に気付かないまま、「ドッキリ」の仕掛け人らしきシャーリーは朗らかに微笑んで見せる。

「良い?ルル、いつもサボってばかりだからこんなことになるのよ。
昨日だって、折角スザク君が転校してきたのにルルいないんだもん」

ねっ、言いながらスザクに笑いかける彼女はルルーシュの困惑の意味を知らない。彼女だけではない、ここにいる誰もがそれを知る筈もなかった。
ただ一人戸惑っているスザクにしても、それまでの自身の境遇と比して暖かすぎる周囲に驚いているという以上の意味はない。
至極真面目に思考の渦に呑み込まれていた魔王も、久方ぶりにみる友人の影のない間抜け面を前にして、肩の力を抜かざるを得なかった。

「…悪かった。で、お前はいつから俺たちの同級生になったんだ」

深く息を吐きながら、何でもない表情を繕ってスザクに視線を合わせる。
以前とは違う、猜疑の眼差しを向けてこない彼であればさりげない会話から多くの情報を得ることは難しくないと思えた。
漸く意味のある言葉を紡いだルルーシュに安心するように、スザクが微笑む。

「うん、それが昨日からなんだ。
17歳なら学校に通うべきだと言われて…驚いたよ、教室に入ったらシャーリーさんがいたから」

「いや、あれには俺の方が驚いたと思うぜ。いきなりシャーリーが奇声を上げるもんだから何事かと」

「き、奇声じゃないよ失礼だなぁ!」

いつも通りの軽口を叩き合うリヴァルとシャーリーを横目に、昨日の戦場指揮官は穏やかな表情を自らの友人に向けた。
それを受けた白兜のデヴァイサーも、同じように微笑む。尤も、彼の笑顔には面映ゆいという感情以外の何物も存在してはいない。

「一日遅れになってしまったが…宜しくな、スザク。
これからはずっと学生としてやっていけるのか」

「いや、それは…僕は軍人だから。本分は軍の方にあるよ。
でも、出来るだけ時間に融通を効かせて貰えるようにはなってるんだ」

躊躇いがちに告げるスザクに、気の良い友人たちが小さく声を上げる。
スザクとシャーリーは嘗てルルーシュを挟んで面識を得ていたが、そのことがリヴァルからも「名誉ブリタニア人」に対する抵抗を奪っているようだった。
そもそも、今回はスザクがクロヴィス暗殺の容疑者となったことがないこともこの打ち解けた雰囲気の一助となっているのかもしれない。

「そっか、でもそれじゃ大変だね」

「なんだよーまさか昨日の早退もそれが原因なのか?」

何でもないことの様に悪友が漏らした言葉こそが自らの欲する回答であることを期待したルルーシュは、決して不自然にならない程度に短く繰り返した。
促すような声音は、陽光に相応しく柔らかい。

「…昨日の早退?」

「あ、うん。そうなんだ。
僕の上司なんだけど、ちょっと変わった人で…突然やりたいことがあるからって」

苦笑しながら告げるスザクに、疑問が氷解した副会長は肩の力を抜いた。
あの常識外れの科学者であればスザクを早退させて戦場に首を突っ込むくらいしても不思議はない。
否、スザクが一度学園に顔を出しているのだとすれば白兜の唐突なエネルギー切れにも説明がついた。

(ロイドめ…当然だが、変人ぶりは健在か)

頭の片隅でゼロとしての思考を働かせながらも、学生服に身を包んだ少年はその姿に相応しい笑みを頬に浮かべてみせる。
それは計算した表情ではなく、懸念が消えたがための自然な笑顔だった。

「そうか…。じゃあまともなクラブ活動は出来ないな。
会長の返事を聞く必要はあるが…スザクにも生徒会役員になって貰おうか」

「お、それ良いじゃん」

ルルーシュにとってそうあるべき提案は、スザクの戸惑いを余所に友人たちには支持される。
早退したということであれば学園の詳しい説明は聞いていないのだろう、転入生は一人目を瞬かせていた。
つまらないドッキリの仕返しはさせて貰うさ、言いながら副会長は今この瞬間が充実していることを痛いほどに感じる。
スザクとは理想の道筋が異なるが、最終的に求めるものは変わらなかった。それは、あれほどにすれ違ってしまった「以前の世界」でも。
ならば、自身が細いロープの綱渡りから足を踏み外すことさえなければ、緻密な計算の通りに計画を進めて行けば、スザクの見た夢を実現することも出来る筈だった。
ゼロの引いた設計図の通りに世界が色を変えれば、いつか。





















「あ、丁度良かった。ランぺルージさんですか」

「え…はい」

自宅であるクラブハウスの扉を開こうとした瞬間、ルルーシュは意図せず呼びとめられて曖昧に返事を返した。声に従って向けた視線の先には、運送屋の制服を身にまとった若い男が両手に抱えるほどの大きさの荷物を持って立っている。大きさの割に軽いらしいそれが自宅への届け物だと気付いたルルーシュは、一先ず扉を開けてそれを受け取った。

「じゃサインを…はい、どうも」

「ええ、ご苦労様です」

常であれば予定しない届け物には十分な注意を怠らないルルーシュだったが、今回ばかりは内容が分かっている。発送元が魔女の愛するピザ屋であれば、悩めという方が無理だった。
嘗て非常に愛用していたクッションともぬいぐるみともつかない黄色の物体が届いたことを知れば、あの共犯者は狂喜乱舞することだろう。
小さく息を吐いて自室に向かって足を進める。咲世子も買い物に出ているのだろう、周囲には生き物の気配が一切しなかった。

「おいC.C.、これはお前の荷物じゃないのか」

自室の扉を開くと同時に、居丈高に言い放つ。しかし返事の一つもなければ彼女の姿も見当たらなかった。
またどこかをうろついているのかと思えば自然と秀麗な眉間に皺が寄る。

「まったく、あいつは…」

苦々しく呟きながらも、ベッドの足もとに荷物を置く仕草は柔らかい。
「ガサツになった」と評されながらもルルーシュは一挙手一投足が洗練されており、乱雑な動作はとらなかった。
両手が自由になった魔王は時間を惜しむように机上のPCの電源を入れる。
事実、昼休みに学園を抜けてきたルルーシュには然程時間が許されてはいなかった。朝の会話を踏まえた上で午後から行方不明ともなれば、今度はシャーリーに何と言われるか分かったものではない。
然程待たせることなく起動したPCに必要事項を入力し厳重に守られた軍のデータを窃視することは、ルルーシュにしてみれば酷く簡単なことだった。
それこそ、休み時間に手早く片付けてしまえるくらいには。

(戦闘被害者、ナリタ…これか。土砂崩れによる一般人の被害、0…予定通りだな。
但し、土に追いやられて部隊が街中にまで及んでいる、か)

開いたデータファイルには、ルルーシュの計算通りの数値が並べられている。
万が一を考えた異様なまでの調整は被害を生むことなく実現されており、その点に関して言えば出来過ぎと呼べるほどだった。
黒の騎士団として大いなる意味を有する戦闘の後に最も気にかけていることがただ一人の少女の肉親の安否であることを思えば苦笑が漏れたが、それこそが自身の望んだ幸福に必要不可欠だとルルーシュは知っている。
被害は少ない方が良い。勿論障害を排除することに戸惑っていては勝利は掴めないが、自らが何を傷付けているのかは知らなければならなかった。
今回のナリタでも、規模は小さくなっているが被害者はいる。そのことを噛みしめるように、ルルーシュは関連ファイルを開いた。
それには土砂崩れによるものではない、しかしそれが遠因となった被害者の名前を連ねられている。
町に押しやられたKF部隊に巻き込まれた非戦闘員。地盤が崩れたが故に照準を狂わされた日本解放戦線の、山砲の流れ弾にやられた民間人。
実際、土砂そのものが町を傷付けることがなかったとしても、それによる混乱で周辺に被害が出ているのは当然といって良かった。
そう、周辺の被害をルルーシュは覚悟していた。

「な…何だ、これは」

瞬きを忘れて見開かれた少年の瞳は、確認のためだけに開かれたファイルの、正しくはそこに記載されたただ一人の名前を前に凍りついた。
被害者は数人。土砂が町を呑み込んだ前回に比べれば僅かな数だった。
勿論ブリタニア軍の被害は少なくはないが、銃を取る相手の生命を気に病む必要はない。
問題は「非戦闘員」としての被害者に、彼が最も望まない人物の氏名が記されていることだった。
ジョゼフ・フェネット。
地質学者としてヒダに向かった筈の男は、ナリタでの戦闘に巻き込まれて命を落としていた。

「有り得ない!何かの間違いだ…その筈だ!」

我知らず鋭い声を発しながら、両手がキーボードを素早く滑る。
呼び出した情報は、同日ヒダで開催した学会の参加者名簿だった。確かにジョゼフに招待状は届いている、彼からも出席の返事はある。
しかし、当日彼はヒダに現れていなかった。当日不参加、彼一人だけが別枠にそう記されている。

「どういうことだ…シャーリーの父親は関係ない!
それとも、これまでもが「大筋」だとでも言うつもりか!
何も関係ない彼女の父親の死が、必然だと!」

声を荒げて震える体を落ちつけようと努力しても、冷たく凍えた指先は上手く働かなかった。
間違いではないのか、一縷の望みをかけて再度軍の情報を手繰る。土に埋もれてしまわなかった戦場の後片付けは比較的手早く終わったらしく、被害者の照会も以前よりはずっと早く行われているようだった。
そしてルルーシュは、動かしようのない事実に直面する。

(何が…何が間違っていた…。
手は打った筈だ、こうならないように出来ることは全て)

虚脱したように声もなく画面を見つめたまま、ルルーシュは自らに問うた。
何を見落としていたのか、何処で失敗したのか。
しかし、答えは得られない。否、現実こそが答えだとすれば画面に表示された人名がそれだった。
ルルーシュは、また、シャーリーの父を殺害したのだと。

(手を打てば運命を変えられる…?
違う、とんだ思い上がりだ。河口湖でも、俺は何も出来ていなかった。
あれ程手を回しても結局シャーリーたちは事件に巻き込まれた。俺は何も変えられやしない)

乾いた双眸からは、涙の一滴も零れない。
大きすぎる衝撃が、ルルーシュから人としての機能を奪っていた。
ただ無力感を噛みしめて虚脱する、しかし次の瞬間には魔王の脳裡には最も忌避すべき瞬間が映し出される。

『わたし、きっとまたルルを好きになる…。
これって運命だよね』

ついさっきも笑いあった彼女の、白く染まった笑顔。生命が、その担い手である血液が留まることを知らず失われてゆくその光景。
再度それを見なければならないかもしれないという可能性に思い至った瞬間、ルルーシュは今度こそ恐怖に凍りついた。
大切にしたいと願った、今も彼女の幸福を心から望んでいるのに、彼女は自身に関わるが故に命を落とすかもしれない。そう思えばこそ、ルルーシュは正常な思考を一時放棄した。
そうせずには正気を保てなかった。
やがて昼休みは終わりを告げる。真面目な彼女はそうなれば携帯電話の電源を落として授業を受ける筈だから、一刻の猶予もなかった。
登録された番号を呼び出しながら、引き出しの一番上に大切に保管していた白い封筒を取り出す。
皺ひとつない長方形のそれは、哀しくなるほど自身に不釣り合いだった。



















軽やかな足音が近づいてくる。幸福な音だった。
雑踏に紛れてしまえば誰も気づかないようなその柔らかな音を、しかしルルーシュは二度と失いたくはない。大切なものがたくさんあるのだと以前も知っていたが、目の前で微笑む彼女に再会した後では以前と同じようには振る舞えなかった。

「ルル?どうしたの、こんな時間に。もう授業始まっちゃうよ」

あの後すぐに呼び出したシャーリーは、何か物言いたげだったがルルーシュの言葉通りに校舎裏に姿を見せた。彼女の言葉通り、間もなく授業が始まる時間であるため周囲に人影はない。
彼女を直視することすら躊躇われたルルーシュは自らの足下に視線を向けていた。
シャーリーが首を傾げる。その仕草に促されるように、意を決した魔王はゆっくりと視線を持ち上げた。
哀しむ権利など自らにはない。冷徹であることこそが鎖を断ち切る刃だと信じなければならなかった。

「シャーリー…君に、告げなければならないことがある」

「え、なに」

あどけない表情で聞き返す少女は、その場を包むただならぬ雰囲気に短く息を呑んだ。
緊張に強張った表情を無理に笑顔の形にした、そんな不自然な微笑みを浮かべる。

「なに…どうか、した?」

「これを、君に返したい」

ルルーシュが差し出した物を、彼女はその大きな瞳で凝視した。
言葉はない。そのことが、シャーリーが小さな長方形の封筒が何であるかを知っている証拠のようだった。
悲しみに歪みかけた笑顔を正面の少年に向け直し、少女は言葉を紡ぐ。

「え、と…。何かあった?
あ、用事が出来たとか、そういうことかな。
ごめんね、いきなりだったもんね。うん、でも大丈夫、気にしないで」

気丈に言いながら、ルルーシュの手の中にあるチケットに手を伸ばす。受け取ろうとして自らの指が黙して語らない少年のそれと触れ合った瞬間、シャーリーの瞳から涙が零れた。

「っごめん、違うの、埃っぽいのかなぁ。
目が乾燥してるのかも。ほんと、ごめん…」

言いながら、少女の優しい指がチケットを握りしめる。くしゃくしゃに皺が寄ったそれがシャーリーの心を代弁するようで、ルルーシュは胸が痛んだ。俯いた彼女の表情は見えないが、赤く染まった耳朶が彼女の涙を教えてくれる。
愛しかった。決して失えないと、そう思うのに何の不思議もなかった。

「シャーリー…君とコンサートには行けない。
これから先も、ずっと」

「え」

弾かれたように顔を上げた少女のまろやかな頬には、想像通りの涙の筋が浮かんでいる。
瞳は悲しみに染まりかけているが、それでも生きた人間のものだった。
それが光を失うところをルルーシュは見たくなかった。

「…君のお父さんが、ナリタで亡くなった。殺したのは俺だ」

「え、ルル、何言ってるの。ごめん、良く分からな」

「お父さんは軍と黒の騎士団の戦闘に巻き込まれたんだ。
そして、信じられないかもしれないが…俺がゼロだ」

言いながら、ルルーシュは懐から拳銃を取り出す。
普通の学生であれば、否、何ら後ろ暗いことのない市民であれば持つ筈のない武器。
鈍い光を有するそれに息を呑んだシャーリーは、それでもルルーシュの言葉の意味を理解出来なかった。

「どうして…お父さんって、え、どうして。
ルル、冗談だよね?ごめん、私良く分からない」

言い募ろうとしたシャーリーの学生服のポケットがにぎやかな音を奏でる。
聞きなれた筈のそれに脅えるように、ひどくゆっくりと少女は手指を動かした。
携帯電話を取りだす、それは慣れた所作の筈だったが彼女の動きはぎこちない。
ディスプレイに表示された発信元は、いつもはこのような時間には決して連絡してくることなどない母親だった。
涙に滲んだ世界が何かがおかしいと告げているが、シャーリーには抗う方法がなかった。
痛みを堪えるように歪んだルルーシュの表情を見つめて、彼に嫌われたのでなければ良いと願いながら通話ボタンを押して。
そこで彼女の運命は、一つの節目を迎えてしまった。























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