inserted by FC2 system --> --> --> -->
















反ブリタニア勢力…「テロリスト」の紅月カレンを救出するにあたって、ルルーシュには絶対的に力が足りなかった。
使い慣れた道具は失われ、手元にあるのはサザーランド1体のみ(今回は譲り受けることは出来なかったが「以前」のPASSで動かすことができたし、持主は抗議できるような精神状態ではなさそうだ)。


あとは…ルルーシュ本人の持つ、歪にねじれた「情報」。




夢中天 4



正直な所、ルルーシュはこの状態をまだ白昼夢かそれに近い何かだと思っている。
しかし同時に、夢くらい望んだ全てを叶えることが出来るのではないかとも思っていた。
冷静に考えれば、大方の情報は此方が握っているものと大差ないと仮定できる。


「落ち着け…。相違点を探せば、まだ巻き返せる」


冷めた目で廃墟の外を窺うと、そこには既に統制された戦場の光景は見られなかった。
ルルーシュは「前回」ここで追手を殺し、その際彼らの目的であったC.C.も逃亡していたはずだ。
そのため、焦ったクロヴィスの軍によってシンジュク壊滅は行われた。
つまりC.C.を回収した今回、彼らの目的は半ば以上達成されている。
今行われているのは区画整理を兼ねた享楽の宴…惨殺だと思って良い。


「腐っている…。だが、今回はそこにつけ込むしかないな」


嫌悪感で秀麗な顔を歪めながらも、ルルーシュには大体の粗筋が見えていた。
今のテロリスト達では逆立ちしても軍とは張り合えない。それはルルーシュが采配を揮っても同じことだった。
しかも現状彼らが只のブリタニア人の学生の加担を受け入れ、しかもその指示通りに動く可能性など考えるだけ無駄でしかない。

足元の砂利を踏んで振り返ると、廃墟の中では未だヴィレッタが虚ろな瞳で謝罪を続けている。
それは一つの結果であり、そして明らかな不確定要素だった…が。


「賭けるしかない、か」


呟いたルルーシュはサザーランドに騎乗した。







紅月カレンは焦っていた。
苦労して盗み出した毒ガスのカプセルは行方不明になり、せっかく密かに手に入れたグラスゴーもあと数十分すれば只の鉄の塊になり果てる。一般人の避難をさせられるほど周到な計画だったわけでもない。
目じりに涙が浮かびそうになるのを、歯を喰いしばって耐えた。


「お兄ちゃん…!」


声に出しはするものの、助けてもらえるとは思っていない。
それは彼女にとって精神安定剤のような呪文となりかけていた。
息をつく暇もなく、左後方からスラッシュハーケンが打ち出される。真正直に避ければ反対側から挟撃されることを悟って、斜めに弾いてやり過ごす。それに何かを感じた様子もなく、ただ後方のナイトメアは距離を保っていた。
その様子から相手の口笛でも聞こえてきそうで、カレンは歯噛みした。


「あんたたちなんて!!」


片足にだけ急ブレーキをかけて方向転換を図り、すれ違いざまに脚部を破壊する。
ざまぁみろ、と呟いても多少心が晴れるくらいで何も変わっていなかった。
カレンには先ほどから戦場の空気が変わったことが分かっている。何がどう、というのではない。
先刻まではそれなりに本気でカレンと向き合っていた敵兵たちが、どことなく緩んでいる。
遊ばれている、ということにもとっくに気が付いた。
ここは彼らの遊技場にされている。それが、本気で生きているカレンにとって耐えがたい屈辱だった。


(活動を始めたときから解ってた。私は勝つか死ぬかしかない。そして、敵はあまりにも強すぎる)


しかしカレンは思う。だからって、と。
エナジーフィラーは警告を出し続け、カレンは命の限り駆けていようと思った、その時。
カレンにとっての運命の鐘が鳴り響いた。


「聞こえるか…紅月カレン」


それはあまりにも無骨なノイズに彩られていたけれど。







「お前は誰だ!何故この番号を知っている!?」


不安を微塵も感じさせないその声に、正直に言ってルルーシュは安心していた。
戦況は悪い。しかしカレンはまだ気概を失ってはいなかった、それがひどく嬉しかった。


「私のことはどうでも良い。君に未来をやる。信じられなくてもいい、線路から西に曲がれ」


言いたいことだけ言って通信を切断する。
此方は彼女の番号を知っているが彼女は此方へは連絡できない。彼女の性格なら乗ってくると思えた。
ただし、信じてやって来るというよりは一線交えに来るといったところだろうが。


「しかし…通信機は無事、とは。ありがたくて涙が出る」


聞いたところによると、枢木スザクは懐中時計なんていう小さなものにその命を救われていたらしい。
それに引き換え此方は通信機を胸に入れていても本人以外にかすり傷もないとなっては愚痴の一つも言いたくなってくる。
しかも商店街のくじ引きは当たったことがない。
釈然とはしないが、代わりにルルーシュは賭けごとには強かった。そう、カレンもきっと。


(正直カレン以外は二の次だ。カレンの操縦技術はこの頃から群を抜いていた。
動くナイトメアさえあれば彼女が命を落とすことはそうはない筈だ)


ヴィレッタから譲り受けたサザーランド1機では戦局は弄れない。
しかし、終了時間までQUEENを残すための時間稼ぎには十分使える。あとはカレンが大人しくこの機体を受け取れば良かった。


「お前か…?」


疑心と不安に彩られた声は、随分と懐かしいものに感じられた。
しかし残念ながら感傷に浸る時間は用意されていない。ルルーシュはメットに隠された顔をカレンに向けた。


「来てくれたことに感謝する。話は簡単だ。そこのサザーランドをやる。使え」


用件だけを手短に告げるとカレンは暫く瞬きを繰り返し、そして言った。


「何のために?お前に何の利益がある。そもそもお前は誰だ!どうしてこんなものを用意できた、答えろ!!」

「質問すべてに答えている時間はない。しかし、私にとって今軍が勝つことは望ましいことではない、それだけは答えておく」

「軍服を着ておいて何を言っている!…お前、何が目的だ」


罠か、とカレンは問わなかった。
それもそのはず、罠など必要もないほど今や戦局は決している。敵軍に兵器を与えて利益を生ずる筈もなかった。
しかし、そうであればこそこの申し出は決定的におかしい。ルルーシュはブリタニア兵から軍服を奪取していた。
テロリストに対して敵兵が個人的な施しを行うなど、前代未聞であれば意味もわからない。
ルルーシュはカレンの戸惑いを十分に感じていたがそれに対するフォローをするつもりもなく踵を返した。


「っ待て!!何のつもりだ、説明しろ!!」


背中に銃の照準が合わせられたのを肌で感じる。
そしてそのまま、ルルーシュは歩み去った。
周囲は遊興に耽っているとはいえ火器の匂いが立ち込めて、人々の悲鳴も断続的に続いている。
殺戮の音に邪魔されながら交わされた短い会話は、カレンに兵器だけを残して終了した。


「なんなのよ、一体…」


呆然と呟いたカレンは、しかし心のどこかで自らの寿命が僅かに伸びたと感じていた。
何もかもが不明のサザーランドを見上げながら。











戻る  進む
















inserted by FC2 system