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黒い学生服は一部濡れてさらに色を濃くしていた。
起き上った少年はただ呆然と中空を眺めている。
比較的近くから子供の泣き声が聞こえて、轟音にかき消されたかと思うと一瞬静かになる。


「何だ…何なんだ、これは!」


少年の声は震えていた。




夢中天 2



働くことを忘れたかのような脳に徐々に力が戻ってゆくように感じて…否、今まで自分があまりに呆けすぎていたことを実感しながら学生服を着た少年・ルルーシュは立ち上がった。
非常事態だ。呆けている場合ではない。
そう感じているのは確かなのに、何かをしなければならないという気分になれない。
理由は簡単だった。

(何が起こっている!?俺は死んだはずではないのか!)

様々な犠牲を出した。その代償として選んだ人生は、つい先ほど愛する妹に見守られながら(というには若干の語弊があるが)幕を下ろしたはずで、その時の…盛大に刺された感触は今なお残っているのに。
時々響く重低音が耳に痛い。指が凍えたように冷たく感じる。

(生きている…しかも、ここは)

ルルーシュは自らに限って記憶違いなどあるはずがないと思っている。
それが正しければ、ここはすべてが形を変え、何もかもが始まった場所…シンジュク。
記憶と若干の違いが認められるのは先ほど感じた衝撃だけだった。


(合理的に考えて、俺は今走馬灯を見ていると推測される。
しかしそれはさっきまでも十分…俺が最期に見たいと思うにふさわしい、幸せな走馬灯を見ていた。
ならばこれは何だ。
考えられる可能性は数十通り…走馬灯である可能性は否定できないが、それ以外の可能性を模索するなら…ギアス。
ギアスがコードに繋がるものだというなら、身体能力が変化している可能性はある。
しかしC.C.を見る限り表面的な肉体については常人と変わりはない。ならば、死に対する抵抗力…つまり、俺の体はまだ死んでいない?
あの出血では活動は不可能だ、そのため脳だけが動いていわば夢を見ている状態に近くなっている、とも考えられる。
そしてこれは走馬灯とは一線を画する…)


ルルーシュは自らの結論に満足しようとしていた。
本当にそれが正しいと思っているわけではない、しかし仮定がないと行動を決定できないほど彼は混乱していた。
そしてこの過程を採用した場合のルルーシュの対応策はつまり、死ぬのを待つだけでもある。
部外者の気分でゆっくりと周囲を見回した彼は眉根を寄せた。


(しかし夢を見るなら見るで内容くらい選ばせてほしいものだ。
…ナナリーの結婚式とか。任せろナナリー、花嫁衣装は考えてある。
好きなものを選んでいい、俺が作ってやる。作ってやるとも。他の人間になど任せられるものか。
任せるといえば結婚相手だ。たとえ夢でもいい加減な相手では納得できない…スザク?いや、あいつはだめだ。
いざという時に基本的に役に立たない。リヴァルは良いやつだがやはり頼りにならないし何より会長に惚れている)


真剣に考え出す彼は言うまでもなく未だ混乱していたが、逼迫した懸案事項は破壊音によって中断をやむなくされる。


「動くな!!なぜ学生がここにいる!?
…それは血か?答えろ!!」


ナイトメアのスピーカー越しに聞こえてくる声はよく知った…敵であり、部下であり、教師であった女性のものだった。
一部にカラーリングの施された、一目で純血派のものとわかるそれはあまりにかつての状況と似ていて。


「答えろ」


ルルーシュは初めて、この状況が夢でなかった場合の対応法について考える気になっていた。











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