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明かりも点けぬままの薄暗い室内に、年端もいかぬ少女が端然と座している。
彼女は年齢に似合わず多くの人間に重要視されていたが、それに反比例するように彼女自身は何もすること
がなかった。つまり、彼女はシンボル、象徴…そういった形式的な存在だった。
そのことを彼女自身が喜んでいないことは周囲の者も知っていたが、だからといって待遇が変わる訳もない
。しかし彼女はそれを甘んじて許すような性格ではなかった。
手回し根回し、あらゆる手段を講じて彼女…神楽耶は望まれぬまま世界のことを知ろうと、自分自身の感性
を以って世界と関わろうとしてきた。
そして、得られた結果の一つが今神楽耶の脳裡を満たしている。

「ゼロ…」

以前神楽耶はシンジュクの報告を聞いて、一人の人物を思い描いていた。今もまた、その時と同じ人物のこ
とを…今と同じような薄闇の中で、声だけの邂逅を果たした男性のことを思っている。
違うのは、以前のことは曖昧な予測の範囲を出なかったことが今回は確実になっているということだった。

「使ったのですね、紅蓮を」

彼女が秘密裏に飼っている手下は以下の報告を寄越している。
リフレインと呼ばれる麻薬の密売を専ら行っていた組織が何者かに襲撃され壊滅の憂き目をみた。
「ゼロ」なる者の通報によって捕えられた彼らの生き残りによると、襲撃者は燃えるような深紅のKFを持ち
嘘のような破壊力で一瞬にして全ては決したのだと。
また、報告は本件にはブリタニア公儀の一部も利益を得ていたため、詳細についてはもみ消されるであろう
ことも言及している。
その事実は唾棄すべきものだが、神楽耶とて現政権のみならず権力を有するものとは誘惑に酷く弱いという
ことは良く知っていた。勿論、赦されるべきではない。これもまたブリタニアを憎む原因の一つにはなるが
、日本が一つの後ろ暗いこともない国家であったとも思っていない、それだけのことだった。
それよりも、重要なことは「ゼロ」の行いである。
彼は今回、神楽耶の与えた力を明確に行使した。そして、神楽耶はその結果に大変満足している。
リフレインは日本人を標的とした害毒だった。しかし、一部の日本人にとって心の拠所でもあった。
それを呆気ないまでに奪ってしまった「ゼロ」が講ずる次の一手を思うと、神楽耶は逸る心を抑えられなく
なる。きっと、日を移さず何かやるに相違ない、けれど。

「神楽耶様、御大がお呼びです」

部屋の外から声を掛けられて、神楽耶は淡く微笑んだ。
まずは紅蓮を手放したことについて言い訳をしなければならない。今の今まで気付きもしなかった癖に。
ええ、と涼やかに応えながらふと思う。言い訳などせずに、思い切りごり押ししてしまおうか。
神楽耶はゼロを買っているし、全面的な援助も悪くないかもしれない。
それもゼロの「次の一手」の出来によるけれど、思いながら神楽耶は久方ぶりに機嫌がいいのを自覚してい
た。













夢中天 18










KFの操縦中は酷く視界が上下する。しかし優れた身体能力を有する紅月カレンにとって、それは然して苦痛
ではなく唯の事実に過ぎなかった。
リフレインの密売現場を襲撃したのは一昨日。昨日の内に次の作戦…つまり今日のことを聞かされて、カレ
ンは酷く安心したのを思い出す。我ながら不可思議な心理状態だが、作戦決行まではそれなりに緊張しても
いた。しかし実際行動を開始してみれば、特別手ごわい敵もおらず、KFの数機を相手にしただけで本日の働
きは終わりに近づいていた。
なお、カレン自身気付いていないことだが数機のKFといえばそう無力とは言えない。彼女が感じる他愛なさ
は紅蓮の能力が他から隔絶しているということ、彼女自身の技術…否、センスの優秀性、またカレンの心か
ら忸怩たる思いが除かれていることなどが原因だった。
完全に沈黙した敵機が地に沈むと同時に、通信機からゼロの声が響く。

「良くやった」

短い声だったが、それはあまりにも温かい。思わず言葉を詰まらせたカレンを訝しく思った様子もなく、彼
は彼自身の仕事…カレンには理解できない、細やかな作業を始めていた。
次の指示があるまでは身体を休めて良いと判断したカレンはほっと息を吐く。
実戦経験は少なくない。しかし、今回の作戦は今までのどれよりも安心感があった。もしかすると、兄がす
ぐ傍にいた時よりも。そのこと自体は自機の性能の高さが原因だとしても、カレンは指揮官としてのゼロを
評価してよいと思えるようになっていた。
指示は過不足なく的確で、何より言葉の端々にカレンに対する信頼のようなものが感じられた。そして何よ
り、ゼロが先ほど発した言葉。良くやった、それはただの一文だったが働きを認められた満足感を与えられ
てまんざらでもない気分になる。少なくとも、次の作戦のことを心待ちにするくらいには。

「どうだ?」

「ああ、間違いない。思ったよりも手広くやっていたようだな」

未だ静寂が残るそこにゼロとC.C.の声が響き、カレンは釣られるように視線を走らせる。
今回の標的はそれなりに名が売れている政治家で、ゼロは無人になった事務所から幾つかの資料を持ち出そ
うとしていた。備え付けられた端末も弄って何やら調べていたらしいが、その内容も小型メモリに移し終え
たようだった。
テキパキと小気味よく働くその様子からは、つい先日の怪我などなかったかのように見える。しかし極彩色
で残された記憶は、あの時飛び散ったものが血液だけではない…それなりの重みを持つ肉塊が彼の腕から弾
け飛んだことを示していた。血に脅えて過大に捉えるほど経験がないわけではない。骨にまで達していても
おかしくない怪我だったが、ゼロはその素振りも見せなかった。













警察が駆けつける前に引き上げたカレン達は、拠点の一つとしている租界の一角にいた。
リフレインの密売を阻止したことは道義的に正しいが、法的には凶行であり、今回の襲撃もまた犯罪である
以上犯行現場に長く留まることは出来ない。ネット上ではゼロをして隠密憲兵である、義賊である、若しく
は犯罪者であるなどの論争が繰り広げられていたがカレンとしては自らをそのどれでもなく戦士であると思
っていた。

「今日はご苦労だった。期待以上だ」

相変わらず柔らかな声音に何処か面映ゆく感じて頷く。
前回に引き続き今回もサポートに徹していたC.C.は室内のソファにだらしなく寝そべりながら、投げやりな
視線をゼロに向けた。

「どうせ次の作戦はもう決まっているんだろう。面倒だから今伝えておけ」

言って、器用に寝返りをうつ。その不遜な態度に、カレンは数度目の疑問を脳裡に瞬かせた。即ち、この二
人の関係は、である。しかしそのようなことを態々尋ねることも憚られ、結果としてゼロの言葉を待つこと
になる。ゼロは無駄に待たせることはしなかった。

「次の作戦は明後日、標的は2つだ。難易度は上がるが、一夜のうちに潰してしまいたい。
襲撃の際ルートは指示するが、資料として所在地をプリントアウトした。頭にいれて臨んで欲しい。
作戦開始は21時、紅蓮を起動して待機。働きに期待している」

淡々と、しかし心地良く紡がれる言葉を聞きながら、両手で資料を受け取る。
しかしその内容に目を通した瞬間、カレンは心臓をわしづかみにされたような錯覚に襲われた。
標的は2つ、正しくは2社。カレンもよく知っているそれは、片方はブリタニアの貿易会社であり、もう一方
は日本人が経営する人材派遣会社だった。

「何故、と聞いても良いかしら」

震える声で発した言葉は、ゼロの硬質な仮面にはじき返されたように感じられる。沈黙は長くない、その筈
なのにカレンは自分が平常心を保てていないことをはっきりと自覚していた。
戦場に出ることは少なくない。敵を討つことは喜びですらある。
しかし、彼女は日本人を敵と認識したことはなかった。
返答は短い。

「それが、害悪だからだ」

言われて、疑問にすらなり得ない感情の奔流が胸の裡を駆け巡る。
標的とされた日本人の企業は、名誉ブリタニア人優先の人材派遣会社だった。国家としての日本は敗れたが
、民族として…まだそれが残っていれば、ではあるが、日本人は優秀と言って良い。だからこそ、生活の基
盤を喪った日本人に職業を斡旋する企業はそれなりに当たったらしい。
勿論制約はあり、どの仕事もブリタニア人より待遇は悪く過酷で、しかも前述の通り名誉ブリタニア人優先
を謳っているが実際は「イレブン」は門前払いを喰らうとの噂もある。それ故未だ日本人であろうとする人
々からは忌み嫌われている、が。
リフレインもその役割の一端を担っていたが、人が生きてゆくために最低限のものを与えることが出来るの
だとすれば、それはどれほど限定的なものであろうと意味があるのではないか。勿論リフレインは害毒だっ
た。気休めの代わりに命を削る、あれはあってはならないものだった…否、金銭を目的に授受されるべきで
はなかった。
しかし今度はどうだろう。
確かにこのまま名誉ブリタニア人としてなら最低限生きてゆけるから、と反骨精神を失い流されるように生
きることをカレンは望まない。縋るだけで自立できなければそれは本当の意味で生きていないのだと思う。
しかし、それに縋ってでも這い蹲ってでも生きている人はいる。彼らは彼らの戦場を生きている。
それを、ゼロが…カレンが、奪って良いものか。
そこまで考えて頭を振った。
一先ずであろうと何であろうと、ついてゆくと決めたのだ。中途半端に迷うくらいなら、覚悟を決めて全て
を見届けなければならない。
小さく頷く様子は、彼女が学校で演じる深窓の令嬢の姿からは酷くかけ離れていた。















「兄さん、大丈夫?」

柔らかく自らを心配する声に、ルルーシュは意識を引き戻された。
麗らかな陽光が降り注ぐ自宅のリビング。瞬きを繰り返して意識を整理して、漸く自身が弟の宿題を見てや
っていたのだということを思い出す。
本日は生徒会役員に悉く用事が重なり、いっそのこととロロを自宅に招いたのだが住み慣れた空間の齎す安
心感からか眠ってしまっていたらしい。

「すまない、ロロ」

「ううん、僕はいいんだけど…兄さん、顔色良くないよ。眠れてないの?」

優しいその声に、思わず大きく首肯したくなる気持ちを苦労して抑え、ルルーシュは微笑んだ。
因みにカレンは本日欠席だった。羨ましい。
C.C.は帰宅した時まだ眠っていた。妬ましい。

「いや。天気が良くてつい、な。ロロは飲込みも早いから宿題もそろそろ終わりそうだし、ガーデンチェア
で一服するのもいいかもな」

「わあ、本当?」

「ああ。ナナリーも誘って、簡単なお茶菓子も用意して…だから、もう少し頑張ろうな」

「うん!」

眠っていたのはルルーシュの方だが、空気を読んだのか天然か、ロロからつっこみはなかった。素直な性分
の弟を温かい目で見守りながら、兄は微笑みを深くする。
ロロはここに来た時よりも、少しずつではあるが表情が増えていた。大体において笑顔だからまだ作ってい
るものが多いのは分かっているが、笑顔にも種類がある。
やがて細分化された表情がその垣根をなくして、ロロの心のままに移り変わるようになることを夢見てルル
ーシュはロロの頭をそっと撫でた。
宿題に集中していたロロは驚いた様子で兄に視線を向けたが、そこにある表情を認めて、言葉を発すること
なく笑った。














翌日。
ルルーシュは自らの通う学園の向かい側…アッシュフォード大学の校門前で眉根を寄せていた。
目的はただ一つ、枢木スザクである。というのも、昨日ロロから警戒心たっぷりに忠告をうけたのだ。
曰く、最近門前から校内を窺っている男がいるらしい。若い男らしいが、どう見ても関係者ではない様子だ
とのこと。まぁ、怖いですね、と全く恐ろしそうな素振りを見せずに言ったナナリーを配慮して言葉を選ん
でくれているらしいが、その視線は明らかにルルーシュに突き刺さっていた。

(スザク…この間空気を読んで見せたのはまぐれだったのか!)

まぐれかもしれない。
だとすれば、おかしな動きをとられる前に接触し、目立たず且つ有効な釘を刺しておかなければならないの
だが。
大学にて枢木スザクを呼び出すとすれば、他の人間の印象に残る可能性がある。しかも、前回大変優秀で心
強い味方になってくれたとはいえロイドの読めなさは無視するべきではない。
現在授業を受けているロロに捕捉される前に連れ出してしまいたいところではあるが、その方法が思案の為
所だった。

(ギアスがなくても俺はやって見せる…しかし)

思うに、ギアスがなくて困るにしてもこのような些細な事例で苦心するのは馬鹿馬鹿しい。
重い溜息を吐きだそうとした時、あっさりと彼の悩みは解消された。

「あれ?ルルーシュ、学校もう終わり?」

気が抜けるほどの呆気なさで掛けられた言葉は、感慨というべきものが殆ど含まれていない。
驚いて顔を上げると、そこには思った通りの間抜け面をぶら下げた幼馴染が立っていた。

「スザク…」

「おかしいな、君のクラスは今の時間はまだ授業中の筈だけど」

真顔で首を捻る男に一言。

「本気で不審に聞こえる発言はやめろ!!」

やはりルルーシュはスザクの思考を捕捉しきれなかった。














所変わって、租界。
公園のベンチでクレープを食べる男2人、というのは微妙な気分だったが名誉ブリタニア人を喜ばない店は多
い。スザクのためというよりは自分の精神衛生上公園に座を落ち着けたルルーシュはそっとスザクの表情を
窺った。
話がしたいと外出を持ちかけると丁度休憩中だったらしく、反対されることなくここまで移動出来た。
太陽の下で見るスザクの表情は幼く、若葉の色をした瞳は何の陰りもなくきらきらと輝いている。様々なこ
とが脳裡に過り胸を詰まらせたルルーシュは、漸く一つ言葉を零した。

「…久しぶりだな」

「ついこの間会ったばかりだよ」

万感を込めた言葉はあっさりと流されるが、その通じなさ加減すら懐かしく思えて言葉が続かない。
ゆったりと視線を合わせるルルーシュに何を思ったのか、朴念仁のスザクは微笑みを深くした。

「いや…うん、久しぶりだね」

言った彼の瞳に涙が浮かび始めているのに気が付き、ルルーシュは小さく揶揄する。泣き虫め、その声に釣
られたのかスザクの浮かべた涙は盛り上がり、音もなく流れて落ちた。

「今どうしているんだ」

「うん、軍に入ったのは知ってるよね。
あれから配置換えがあって、今は…なんなんだろ。実験の手伝いとか、そういうことをしているよ」

スザクの返答に自らの予想が間違っていないことを知る。
クロヴィスの時に活躍することは出来なかったが、名誉ブリタニア人の移籍くらいは軍にとって何の意味も
持たない。規律と階級に厳しいコーネリアが着任する前にスザクの所属が変わっていれば、後はシュナイゼ
ルの管轄になる。そして、思った通り実践投入はなし、といったところで間違いないだろう。
思案に耽っていたルルーシュは、突然肩を掴まれて驚きと共に奇妙な声を上げた。

「そんなことよりルルーシュ!あの弟って何!ナナリーは元気なの!?」

がくがくと揺さぶられ、舌を噛まない様に留意しながら制止する。
渋々といった表情を隠しもせず手を離したスザクは、しかしその視線だけは外さずじっとルルーシュを見つ
めていた。

「まず一つ目。ロロは弟ではなく遠縁の親戚だ。…ロロについては心配は必要ない。
それから、ナナリーは…相変わらずだ。でも、元気で今も一緒に暮らしている」

ロロについての言葉を眉根を寄せて聞いたがナナリーの話題になると表情が緩む。
温かな陽だまりのような印象の少年は、その雰囲気通りに穏やかに微笑んだ。

「そうか、良かった」

「ああ。今俺たちはランぺルージと名乗っている。唯の学生として、な」

一瞬、痛ましいような苦しいような複雑な表情を見せたスザクは顔面ごと下を向き、小さく頭を振る。
動きに合わせて所々跳ねた癖っ毛がふわふわ動くのを眺めつつ、ルルーシュは次の質問に備えた。
前回聞かれて、現在まだ話題に上っていないこと。C.C.について。
対応策は以前と同じで問題ない。それからどのように逃れたのか…それについては詳しく問いただされる前
にナナリーに会ってほしいと頼んだ方が自然かもしれない。
いっそこちらから話を切り出すか、そう思った瞬間。
思ってもいなかった声に後ろから貫かれた。

「あれ、ルルー?」

驚いて振り返ると、そこには同じように驚いた表情の友人…シャーリーが小首を傾げて立っていた。
しかし直ぐに本日の午後の授業を放棄したことを思い出したのか、細く形の良い眉を吊り上げてこちらに向
かって来る。

「こら、また授業サボったでしょ!どうしていつも、」

可愛らしい怒気が溢れる彼女の声を遮るように、今まで項垂れていたスザクが猛烈な勢いで顔を上げルルー
シュの腕を掴む。抗議の声を上げる間もなかったが、かなりの痛みが伴った。

「ルルーシュ!君はやっぱりサボったのか!しかもいつもって!!
良いかいルルーシュ、サボりはいけない。不良になってしまう。不良になると悪い友達も出来るし、怖い人
に目をつけられるんだよ!」

必死といって良い剣幕で捲し立てるスザクに、いつも叱責していたシャーリーまでもが度肝を抜かれて茫然
とする。しかし呆気にとられたのは僅かな間のみで、彼女はゆっくり、慎重に確認のための言葉を紡いだ。

「えっと…ルル、」

その声には質問の意味が含まれていたが明確な単語は使われなかった。
友人なのか。しかしそれを尋ねるにはスザクの容姿はあまりにも彼らの言う一般的な「友人」からかけ離れ
ていた。
イレブン、彼女はそう言いはしなかったが戸惑いを肌で感じたスザクはさっと蒼褪める。
自分が被支配民族であることを忘れていた訳ではなかった。しかし、余りにも明らかに浮かれすぎていた。
唇を噛んで再度俯いたスザクが聞いたのは、信じられない一言。

「ああ、シャーリー、彼は枢木スザク。俺の友人だ」

驚きのあまり顔を上げることすら出来なかった。地面に縛り付けられたままの視界はシャーリーの、女の子
らしく小さな靴だけを映している。
その靴が戸惑うように僅かに力んで、そして真直ぐスザクに近づく。
そして、俯いたスザクの前に柔らかそうな、労働を知らない白い手がゆっくりと差し出された。

「えと、宜しく、スザク君。私はシャーリー。シャーリー・フェネットです。ルルのクラスメイトよ」

眼の前の光景が信じられずゆっくりと視線を上げると、僅かに戸惑いの色が残されていたのは確かだが、同
い年の少女が小さく微笑んでいる。しっかりと視線が合わされた瞬間、彼女から戸惑いの雰囲気が失われて
控え目だった微笑みが少女らしい、明るいものに変わった。
そのことにスザクは感動すら覚えながら自らの右手を差し出した。

「宜しく、シャーリーさん」

「うん」

言葉と共に、躊躇なく握手が交わされる。
それから後、彼女はスザクとルルーシュのことについて幾つか質問をしたし、中途半端に終わっていたルル
ーシュへの小言も言った。それから買い物の途中だったらしく手を振って立ち去ったが、その時スザクに駆
けた声にも笑顔にも一切の含みは感じられなかった。

「またね、スザク君。今度ゆっくりお話ししようね!」

終始笑顔だった彼女に、スザクは何とも言葉にし難い感謝を覚えていた。
嫌悪されることになれたスザクは同年代の少女とこれほど明るい挨拶をしたのは随分久しぶりであるように
思える。
その時スザクは何故だか胸の裡でルルーシュを評価しなおしていた。
流石ルルーシュの友人だ、綺麗なルルーシュの友人はやっぱり綺麗だ。彼女はルルーシュに想いを寄せてい
るようだが、彼女なら相応しい。
あの時の優しく美しかった兄妹は綺麗なまま成長したに違いない…。
何の疑問も感じずそう信じたスザクは、過去の自分が救われたように感じ、次の瞬間には決して救われては
ならないのだと思いなおす。

複雑に揺れる彼の内心を、隣に立つルルーシュは静かに見つめていた。



























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