inserted by FC2 system --> --> --> -->













段々と、意識が遠のいていった。
それは視力を失いつつあるような、または余りの眩しさに目が眩んでいるような、何とも表現の難しい感覚だった。

彼は随分と満足していた。周囲には自らの死を祝う声が満ちている。
手指の感覚が失われてゆく。
それでも彼は非常に満足していた。

ただし、一つだけ。



おにいさま、あいしています
わたしはおにいさまさえいてくださればそれだけでよかったのに


おにいさま、おにいさま
あいしています


泣きながら愛を告げる愛しい彼女をほんの少しだけ撫でてやりたいと、そう思っていた。


彼の最期の願いだった。





夢中天




      ルルーシュ!





それは浅い眠りを無理やり醒まされる感覚に似ていた。
殴打にもにた衝撃を感じて周囲に目を走らせる。
埃っぽい廃墟に似た景色の中、数条の光が足元を照らし、遠くには機械の駆動音、銃声…そして悲鳴が聞こえた。


「学生の割にはよく頑張った、と褒めてやろう。
しかし…これまでだ」


どこかで聞いた覚えのある声に目を向けると、勝利に酔った男の顔が眼に映った。
男の顔を記憶と照合させる間もなく。


「さようなら、学生君」


銃声が響き、彼は二度目の死を迎えた。



絶命したまま衝撃に後ずさり、壁に沿って崩れ落ちる少年を何の感動もなく見遣った軍人たちは、
そこでようやく肩の力を抜いた。
主君に密命を与えられることなどそう多くはない。
失敗すれば少年と自分は同じ運命だったことを思うと、いまさらながらに肝が冷えるのを感じた。

「女を回収しろ」

隊長格が短く声に出すと、部下の一人が絶命した少年の足元でこちらもすでに生きてはいない様子の少女を持ち上げる。
部下の表情は酷く醜いものを見たときのように歪んでいた。

「本隊に報告しますか」

「いや、殿下だけでいい。本隊にはしばらく伏せろ。女の痕跡があるからな。
この際だ。殿下もシンジュクの大掃除をされるおつもりだろう。報告はそれから…十分に痕跡が消えてからだ」

短く了解の声が上がり、そして男たちは振り返ることなく去って行った。
報告書も、実行犯もあとでどうとでもなる。
ひとまず今は『毒ガス』の対応に当たらなければならないのだから、と。

足音が遠のき、人の気配が希薄になる。
あとはただ戦場の空気だけがその場を支配した。




それを確認して、学生服を朱に染めた少年はゆっくりと起き上った。











戻る  進む
























inserted by FC2 system