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C.C.の食生活は眼を覆いたくなるほどに惨憺たるものだった。
同じことをやれと言われればルルーシュは一考の余地なく断る。が、贔屓のピザ屋のポイントを貯める姿は微笑ましいと評して良かった。

「チーズ君まであと8枚…」

歌うような呟きは彼女の心情が大変よく現れていて、苦笑するしかない。
とはいえ、C.C.とルルーシュにはピザ屋の景品を集めるよりも優先させるべき事項があったため、意識して固い声を出して魔王は魔女に短い指示を伝えた。

「明日、例のホテルに向かってくれ」

唐突な言葉だったが、ベッドの上でしどけなく寛ぐ女には今更驚くべきことでもない。
ゆっくりと身を起こし、視線だけで先を促した。

「複数の部屋を借りていることに関しては言及されないよう手を回しているから、唯行って手続きすれば問題ない」

「それから?」

「それから…これを各部屋に設置すれば直ぐ戻ってもらって構わない」

言いながら、然程大きくもない包みを差し出す。
C.C.位の年齢の女が持っていても不自然でない程度に洒落たそれが何であるか、分からないほど彼女の勘は鈍くもなかった。
大きさの割に重量のあるそれを片手で受け取りながら、魔女は笑う。

「何処に仕掛ける」

「部屋ごとに指示する。持っていけ」

言葉と同時に手渡されたそれはホテルの部屋の見取り図らしく、部屋ごとに赤い×印が付けられていた。
一見して見つからない場所ばかりを、恐らく物理学の見地から効果的に配置しているのだろうとは思ったが詳しくは彼女の感知するところではない。
見返すと、元魔王もまたその名に相応しい笑みを浮かべていた。











夢中天 20















「お姉さま、ありがとうございます!」

満面の笑みを浮かべて姉の手を握る。正直、浮かれていると窘められるかもしれないと危惧したが、姉の表
情もまた朗らかなままだった。

「いや、そろそろお前にもそういった雰囲気を教えるべきだと思っていた。
意欲的に励んでいるようで嬉しいよ、ユフィ」

言葉の通り優しい彼女の微笑みを見つめて、ユーフェミアはいつもと同じように、自らの姉が「ブリタニア
の魔女」などと称されていることが性質の悪い冗談ではないかとそう思う。
確かに姉のコーネリアは厳しい人だが、必要な愛情はいつだって間違っていなかった。
国家間の問題は簡単ではないと分かっているが、それでも姉は決して魔女ではない。いや、彼女を憎む者に
そう呼ばれることはあるかもしれないが、何れ分かりあうことが出来る、そう思わずにはいられない。
その為にも、ユーフェミアは出来る限り早く副総督としての務めをこなせるようにならねばならなかった。
しかし、自分で言うのも何だが彼女には知識がなく、政治的視点を持たず、人の…または人々の希望を叶え
る術を知らなかった。だからこそ、彼女は知ることを始めなければならない。

「護衛をつけるから心配ないとは思うが…何か気付く点があれば必ず連絡するように。
一人で出歩くなど以ての外だ、分かっているな?」

「はい。大丈夫です。もう子供じゃないんですよ」

微笑みながら幾つか言葉を交わし、自室に戻る。久しぶりの高揚感に頬が熱くなるようだった。
窓を少しだけ開いて今の気分を象徴するような爽やかな風を室内に招きいれながら、来るべき会議のことを
思う。

(これで、少しは分かることもあるのかしら)

ユーフェミアは相変らず、エリア11のことが分からない。
知りたい気持ちが大きすぎてこっそり抜け出したこともあったが、地理が分からず右往左往している内に連
れ戻されてしまい、結局今も何も知らないままだった。
当然、知識としてはそれなりに承知している。
世界有数のサクラダイト採掘量を誇り、未だ不穏な関係を続ける中華と隣接している。
実戦に初めてKFが投入された地でもあり、それも関係してか反政府運動は他に比べてやや活発。
名誉ブリタニア人制度の適用がなされているが、元経済大国の自負もあってか、申請者はあまり多くはない
…。全て知識だった。
不必要だとはとてもではないが思えない、しかしそこには何の感情も宿ってはいない。
副総督としての自分には有用な情報だが、個人としてのユーフェミアはいつもそれだけでは物足りなくなっ
てしまう。
彼女は、一人ひとりのイレブンに聞いてみたかった。どうして、と。
祖国を失うことは哀しい。しかし、ブリタニアも出来る限りの助力を惜しまないつもりでいるのに、いつま
でも争いはなくならないままだった。
学校の友人は「彼らは劣っているから争いを好む」と断定した者もいたが、ユーフェミアにはそうは思えな
かった。だから、どうすれば争わずに生きていけるのか、彼らの…イレブンの意見も聞いてみたい。
その為にも、まず彼らの生きた情報が欲しかった。
河口湖での会議に非公式に参加する、その道中でも良い。現地で、僅かな間でも良い。
イレブンと、または名誉ブリタニア人と接することは出来るだろうか。出来なくても良い、遠目にでも彼ら
の生活をこの目で垣間見ることが出来れば。

(ねぇルルーシュ、貴方がいればきっと今の私を笑うわね)

子供のころからそうだった。夢想を語る自分に、苦笑しながら少し勿体ぶって「それはね、」と説明する彼
の声が好きだった。今でも、もしも自分の疑問が彼に届いたら、あの優しく意地悪な声で諭してくれたのだ
ろうか。

(きっと少しは自分で考えないと馬鹿になるって言われるわ)

思って、不図コーネリアのことを思い出す。いつも余裕を失わない姉だが、ここに赴任して少しだけ変わっ
たところがある。常であれば一部の隙も無く合理的な彼女が、最近「ゼロ」とかいう人物を調べさせている
ことをユーフェミアは知っていた。
それ…ゼロは初めは都市伝説としてそっと巨悪を討っているのだと噂されていたが、違法薬物取引を武力で
阻止した件を皮切りに徐々に現実にその姿を現し始めている。
今ではブリタニア人の政治家を倒したとか、企業に鉄槌を下したとか様々なことが非公式に、しかし小さく
ない声で取り沙汰されているが、要するに一風変わったテロリストであることは確かだった。
そう、彼の理想が何であれ、不認可の武力はテロリストの象徴だ。
しかし、いつもの姉ならばそれしきのことで眼の色を変えたりはしない筈だった。ユーフェミアから見ても
、どちらかというと重要なのはより大きな組織…例えば日本解放戦線などを気にするべきだと思えるのに。
良く分からない、しかしそれも自身が副総督として成長すれば理解できるようになるのだろうか。

(ねぇルルーシュ、貴方が知ったらきっと…きっと呆れるでしょうけど、いつまでも幸せな時間は終わらな
いものだと思っていたの。だから、貴方が苦笑したあの幸せな夢を、今もまだ諦められずにいるの)

可笑しいわね、小さな呟きだけを零して彼女はそっと笑った。
感傷を呼び起こしてしまったが、それでも現実は充実しているのだと、そんな自嘲を込めて。

















一方、腹違いの妹からの熱烈なラブコールに気付かない兄は、現実の問題に直面していた。
先日の作戦も大過なく…一部を除いて恙なく終了して、資金調達を兼ねた情報操作を行った昨夜、久しぶり
に睡眠時間が4時間以上だったため本日の体調は良い。
だからこそ、きっと幻覚を見ているということはない筈なのだが。

「一緒にご飯食べましょ、ルルーシュ君」

一言一句違えずに言葉を繰り返した学園のアイドル、カレン・シュタットフェルトを前に同じく学園のアイ
ドルである副会長は大いに頭を抱えた。
昼休みに突入した途端の彼女の誘いに、教室中が固唾を飲んで視線を寄越している。
視界の隅ではシャーリーが赤くなったり青くなったりしているが、それに対する感想すら湧いてこない。
何処か茫然とした表情にしびれを切らしたのか、控え目なお嬢様であるべきカレンは「ふっ」とばかりに不
敵に微笑むと同時にルルーシュの手を取った。

「時間がなくなっちゃうわ。行きましょ」

「え?お、おい!」

「良い場所を知ってるの。邪魔が、入らないところ」

教室を後にする際、辛うじて聞こえたカレンの声がそこに残った生徒たちの反応を煽った。
わっ、と割れんばかりに上がる歓声に強い疲労を感じながら、漸く少しは働くようになった頭を小さく振っ
てカレンを見遣る。そこには、誰が病弱だと尋ねたくなるほどに意欲に満ちた表情が浮かんでいた。

「何処まで行くつもりだ」

「邪魔が入らないところ、でしょ。クラブハウスの裏とかでも良いんだけど、問題がある?」

「大有りだ。…一先ずここで良い」

言うと、握られたままの手を払って手近な特別教室のロックを解除する。
今更鍵が必要でもなかったし、午後この教室を使う授業はどの学年にも予定されていない。カレンの言葉を
借りるなら、邪魔など入りようもなかった。
周囲に人目がないことを確認してカレンを押し込み、次いで自分も室内に滑り込む。出来るだけ不審に思わ
れない様に内側からロックを掛けなおしたところで、短く感嘆の声が上がった。

「今更だけど、見事なものね」

声を発した少女が素直に感心していたため何処となく気が抜け、かわりに疲労感がルルーシュを襲う。
大きく吐いた溜息に嫌味のつもりはないが、全く気にしていない様子を見ると苛立たなくもなかった。

「何のつもりだ」

聞きたいことは多かったが、それ故言葉は短くなる。
列挙すればきりがない不満を視線に乗せて睨みつけてやれば、感情的な態度が予想外だったのか、思ったよ
り楽しそうに…物珍しそうにカレンが笑った。

「別に。言ったでしょ、一緒にご飯を食べたい。それだけよ」

言いながら少女らしい明るい色の巾着に包まれた弁当箱をこれ見よがしに掲げる。
その仕草そのものは愛らしいと言うこともできたが、カレンの真意が見えないルルーシュにとっては歓迎で
きるものでもない。短く息を吐くことで気分を落ち着け、再度低く声を発した。

「何のつもりだ、と訊いている。
演技の評価はともかくとして、学園での君の立ち位置は理解している。その意味での日常は保った方が都合
が良い筈だ」

お互いに、そう言って言葉を切る。
楽しげに笑んだ少女は気を悪くした風でもなかったが、ルルーシュの瞳に込められた力が緩まないことを確
認すると、諦めるように肩を竦めた。
その仕草は何処か物慣れていて、とてもではないが深窓の令嬢のそれではない。

「随分お冠ね。良いわ、それなら言わせてもらうけど…。
貴方の妹は貴方のもう一つの名前を知っているのかしら」

カレンは、露骨にゼロの名を出しはしなかった。しかしその示唆するものがゼロであることは明確だったた
め、ルルーシュは眉根を寄せる。
眼の前の少女の性格は熟知している。たとえどれほど気に入らないことがあろうと、人を脅すようなことは
しない。それが相手の愛する者を盾にするような方法であれば猶更だった。
しかも現在自身と彼女の利害は一致しており、さらに言うなら嫌悪の念も抱かれてはいない筈。
返答を、というよりも彼女の言葉の…彼女がその言葉を選んだ意味を考えている間にそれを一種の返答と取
ったのか、カレンの唇から次ぐ言葉が零れおちる。

「それだけじゃないわ。あの、突然現れた弟君。彼も何も知らない…筈、違う?」

ロロにまで言及されることでカレンの言葉の真意を捉えられそうな気分になるが、それほど気が長くないら
しい彼女は既にルルーシュの答えを待つつもりはないらしい。
少しだけ驚きを表したであろう自身の顔を満足そうに眺めて更に言葉を繋げる。

「見れてば分かるわ。貴方は彼らをとても大切にしているものね。
でも、妹はともかく弟の方を警戒しないのは何故かしら」

「、それ、は」

その必要がないから。そう言えずにルルーシュは口ごもった。
「以前」の記憶があるからこそ確信を持っているロロの性質を説明するわけにもいかないが、それには明確
な理由があった。
ロロを駒としているのはV.V.であり、その向こうにはC.C.と連絡が取れないことを訝しんだ母ことマリアン
ヌと皇帝がいる。例えば、彼らにゼロがルルーシュだと露見したとして。
実は何の不利益もないのだ。
彼らの目的はラグナロクの終焉を実現させることであり、版図を広げることもその手段の一つでしかない。
場合によってはゼロの活躍からギアスの存在を感じて、C.C.との接触を保っていることを喜ぶ可能性すらあ
った。C.C.が協力を拒んだ場合、彼女からコードを奪う手段は多い方が良いのだから。
それ故、ルルーシュが現在警戒すべきはコーネリアその人だった。
それは目前のことからコツコツと実績を積む、という意味ではない。複数の意味で、コーネリアこそルルー
シュがまず打倒すべき最大の人だった。
しかし、ロロはコーネリアと接触しない、それは「以前」のコーネリアの行動からも明らかで。

(だから、警戒は必要ない。しかし)

情報の全てを隠したままそれを説明することは至難の業だった。
忌々しげに舌打ちするルルーシュをどう捉えたのか、満足そうに笑ってカレンは続ける。

「口ぶりから分かっていたけど、「愛する人」には随分と甘いみたいね。
しかも自分のことには随分と無頓着みたいだし」

決めつけるような口調に思わず反発して声を荒げそうになるが、いきなり真剣な眼差しを寄越したカレンに
圧倒される。カレンはルルーシュには分からない、ひどく真面目な…そして、何処か切なげな表情を崩さな
いまま視線をルルーシュの顔からゆっくりとずらし、左腕の上で固定させた。
先ほどまで滑らかに動いていた唇は小さく震えて、漸くといった風情で声を漏らす。

「そうでなければ…そうでなければ、私はまだ貴方のことを知らないままだった。
あなたが、自分以外の誰かを過度に大切にする人でなければ」

その口調に、今更ながらルルーシュは大いに後悔した。
彼女の母を庇う、そのことは間違っていなかったと今でも胸を張れるがあの時の自分にはあまりにも余裕が
なかったらしい。うっかり負った怪我は呆気ないほどに直ぐに跡形もなくなってしまったのに何故かカレン
はそのことに拘る。良くない傾向だ、そう思って彼女を見返すが少女の表情は未だ張りつめていた。
ゆっくりと、唇が動く。

「だから、貴方のことは私が守る」

「不要だ」

即座に反応出来たことに思わず自らを絶賛する。
それほどまでにカレンの言葉は真摯だった。切なるそれはあまりにも一途で、うっかり呑まれてしまっても
仕方がないほどに強固な決意を感じさせられる。しかし、こと自身とC.C.に関して言えば、肉体的危機は度
外視しても問題なかった。
しかし、カレンは簡単に引き下がるつもりはないらしい。それは声からも明らかだったが。
数度目になる溜息を呑込みながら、ルルーシュは重い口を開いた。

「既に見せたと思うが、俺のことを心配するのは杞憂だ。
それより、関係の変化を不審に思われる方が痛い」

「杞憂?どうかしら。確かに傷の治りが早いのは見たわ。
でも、外傷じゃなくても人は死ぬのよ。ううん、傷の治りが早いことに関係しない外傷だってある。
痛みや傷が塞がる前の失血によるショック死とか、傷が治る前に死んじゃうこともあるかもしれないでしょ
。頭や心臓をやられたらどうなるか、分かってるの?
誰にでも気を許して、毒でも盛られたら?
何が貴方を殺すのかは分からない、でしょ?だって今貴方は生きているんだから」

一気に言い放つカレンはいっそ思いつめたような色の目をしていた。
そのことに元魔王は驚愕を隠せなかった。C.C.と自分の体のことを知って恐怖しないどころか、却って心配
を募らせるとはカレンの心中は計り知れない。
揺らめきながらも決して色を変えない彼女の瞳を見つめていると、しっかりと見つめ返されて僅かに狼狽す
る。
そのまま、一つひとつの言葉を噛みしめるようにカレンは言った。

「あなたの慢心が怖いの。だから、」

あなたは私が、守る。
声の強さで言えば呟きにも等しいそれは、確かにルルーシュの耳に届いてそっと鼓膜を打つ。
だから彼は、彼女の愛情はとてもかなしいと、そう思った。



















そして彼女の愛情はかなしいと同時にとても厄介でもあった。
なんとなく押し切られるように昼食を共にして、午後の授業では嫌というほど視線の洪水に晒され、放課後には生徒会室まで連行される間、彼女はぴったりと傍に張り付いて離れようとしなかった。
昼食時に今日の予定を聞かれたときに、正直に答えたことを後悔するが、この様子では自宅まで送るとでも言いかねない。
この際彼女の行動の幾らかを受け入れて、もう少し目立たないよう振る舞ってもらわねばならないのは明らかだった。現に今も、生徒会役員たちの視線が痛い。

「えっと、カレンさん…何か、あった?」

控え目に声を掛けるのは当惑気味というには混乱が表面に現れすぎている我らが生徒会長。いいえ、と微笑まれた彼女はルルーシュにアイコンタクトを試みるが、疲労困憊の彼はそれを見なかったことにした。
カレンさんとルルって…、呻くような声も聞こえるが併せてスルーする。今日だけの辛抱だと自身に言い聞かせながら。
その場にいる者のほぼ全員が表情を歪ませていたが、そこは流石というべきか、一番初めに思考を切り替えたのは、誰あろうミレイ・アッシュフォードだった。

「ん~~ま、いっか!命短し恋せよ乙女、ってね!」

「恋!!」

ミレイの言葉を真っ正直に受け止めてシャーリーが蒼褪める。
傍観に徹していたリヴァルがお世辞にも上品とは言えない薄ら笑いを寄越してくるのが副会長にはとても、とても不快だった。
ともあれ、ミレイは全て流してカレンに微笑みかける。

「ね、カレンさん。定期考査の後、予定ってある?」

「え?」

項垂れていたルルーシュの耳に、朗らかなミレイの声が届いた。
定期考査の後、といえば今までずっと警戒していた小旅行の日程と重なる。ここで語られる僅かな情報でも逃すまいと意識を集中させるが、それに気付いた者は一人として居なかった。

「定期考査が終わったらさ、ちょっと泊りがけで遠出しようかと思ってるんだ。
河口湖、知ってる?もし行けたら一緒に行かない?」

ミレイの声に、思いのほかあっさりとカレンは答えを口にした。

「いえ…残念ですが、」

演技と分かっていても申し訳なさそうに微笑む彼女は儚げだった。
だからこそ、ミレイも理由を深く問いはしない。
カレンから何らかの視線を寄越されることを懸念していたルルーシュとしては意外な思いだったが、そもそも彼女は頭が良い。自分自身で考え、事前に指示がなかったことを解釈したのだろう。

「そっか~。ルルちゃんは用事、だからナナちゃんもペケ、リヴァルもバイト、カレンさんもダメ、か。
ね、じゃロロは?」

勢いよく尋ねられて、それまで茫然としていたロロは慌てて開きっぱなしの口を閉じた。

「え、と。僕も今回は遠慮します」

言いながらもちらちらとルルーシュの方を窺っているあたり、カレンの態度による衝撃は大きかったらしい。確かに、昨日まで何の接点もないと思っていた二人がこうも接近していては気になるもの無理はない。
ロロの返答にミレイは大きく肩を落としたが、しかしそこで地の底まで落ちてしまわないのが彼女の彼女たる所以だった。

「よし、それなら今回は見逃すわ!ニーナとシャーリーが一緒に行ってくれるしね!
でも、次は絶対全員参加よ。だからそれを誓って…ジャーン!!」

大仰な効果音を口にしながら彼女が高く掲げたのは、学生が持つにしては立派なカメラだった。
何処に隠し持っていたのかと言いたくなるが、思えば本日は皆カレンに気を取られていただけでそれは始めから彼女の手の内に抱えられていたのかもしれない。
いそいそと三脚を用意しながらミレイはこれ以上ないほど華やかに微笑んだ。

「仲間が増えたことだし、集合写真!
ね、次はみんなで行くぞ、って気合いを込めて。撮るわよ~」

言いながら振り向いて、嬉しそうに目を細める。
ルルーシュは、彼女のこの表情がとても好きだった。先ほどから楽しそうに微笑んでいたナナリーの車椅子を押してカメラの前に移動すると、目線を合わせるように傍らに膝をつく。椅子の肘かけに置いた手の上に妹の細い指が重なって、柔らかな熱がルルーシュの心を温める。
優しい気分が溢れて零れおちそうで、その多幸感を抱きしめながら視線を巡らせた。

「ロロ」

弟はこういった交わりには慣れていない。戸惑うように視線を彷徨わせていた彼を呼んで、そっと手を差し伸べる。弾かれるように表情を変えるロロが可愛らしくて、ルルーシュは思わず微笑みを深くした。

「おいで」

「うん」

小走りにルルーシュの隣に並んだロロがカメラに視線を合わせると準備は完了した。
可愛らしく、またはひょうきんにピースサインを作るシャーリーやリヴァルを見たロロはそれが作法なのかとも思うが、必ずしもそういうわけでもないらしい。小さく戸惑うロロの心境を読んだように、ルルーシュが開いた方の手でそっとロロの手を握る。
そんなことで、ロロは酷く安心してしまった。だから常識も作法も考えずに手を握り返して、彼はこの上もなく穏やかに微笑む。

「タイマーセット、良い~?」

朗らかなミレイの声は、恰も幸福の象徴のようだった。





















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